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2006年 08月 26日
「嘘つきアーニャの真っ赤な真実」 米原 万里 著
多感な5年間をプラハにあるソビエト学校に通った著者が、ソ連邦が崩壊した激動の東欧に幼馴染を訪ね歩いた記録です。 おませで勉強より映画の中の男女関係にひときわ興味を持っていたリッツァが、ドイツで移民達に頼りにされている医者になった話。 共産主義のルーマニアで労働党のお偉方が、チャウシェスク政権が転覆された後も相変らず特権を享受している様子。 そして子弟のアーニャが特権を駆使してイギリスに移住し、何の良心の呵責もなくアッパーミドルクラスの生活を楽しんでいる話。 ソ連邦と関係の悪くなったユーゴスラビア人のヤースナは絵が得意で、勉強も優秀な生徒だったが、ユーゴスラビアを裏切り者とし辛く当たる新しい校長先生に耐え切れなくなって退学してしまう。ヤースナの父親はボスニア・ヘルチェゴビナの最後の大統領にまでなったが、ヤースナ自身は5LDKの普通の団地に住んでいて、再会3年後、アメリカとNATOがヤースナの住む近くを爆撃したという話。 以上、3人の幼馴染を巡る無駄のない歯切れのいい文章に、真っ直ぐな万里さんの眼差しが感じられるノンフィクションでした。 「オリガ・モリソヴナの反語法」 米原 万里 著 これは小説といいながら、長年の通訳と翻訳活動で念密に調査、裏付けされたほぼ真実を語ったんではないかと思われました。 それほど、ラーゲリ(共産主義の強制収容)での悲惨な様子とオリガが生き残ったエピソードに現実味があります。 「七面鳥も考えたけど、結局スープのダシになっちゃちまったんだよ!」 「ああ神様! これぞ神様が与えてくださった天分でなくてなんだろう。長生きはしてみるもんだ。 こんな才能初めてお目にかかるよ! あたしゃ嬉しくて嬉しくて嬉しくて狂い死にしそうだね!」 これが、小説に出てくる「オリガ・モリソヴナの反語法」なのです。 この反語的な言葉使いが激動の歴史に翻弄されながら生き抜いたバイタリティの証(あかし)だったのですね。 後半、主人公が日本への帰国の時間が迫り、フランス語教師・エレオノーラ・ミハイロヴナの秘密とオリガの真実が畳み掛けるように明らかにされていく展開に寝る間も惜しんで読み進めていった私です。 それは、万里さんの歯切れのいい文章が手綱を緩めずグイグイと最後まで引っ張っていってくれたから。 米原万里さんは単なる翻訳家だけではなく、本当に素晴らしいストーリーテラーでした。 もし、米原万里さんを読んでみたい方はこの2冊はぜひお勧めします。
by nounai_g
| 2006-08-26 21:22
| 溺れる読書
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